意気揚々とアドカレに登録したはいいものの書くネタがない。もう私がこの1年間シムトラで行っていたのは「NSに入って市道を引いた」という、ただそれだけなのです。ローカルも楽しかったんですが、多くの方と集まって一つのマップを作り上げる楽しみを知ってしまうと、もうなかなか手が伸びんのです。

 ということで、私が今年9月にSimutransコミュニティによるイベント「シムトラ学会6(オンライン)」にて長々と発表させていただいた珠玉のスライドをここに貼ることで、せめてものネタにしようと思います。


 以下、ハードコア景観プレイの世界へ――――
 長いので雑に読んでください

スライド1
 景観プレイのための市道引きかた研究、です。

 これはパワポテクなのですが、あらかじめタイトルスライドのテンプレを作っておくと楽にドヤ顔ができます。


スライド2
 こんな方におすすめです


スライド3
 このスライドで試みる市道の分析・再構築は、きわめて表面的なものにとどまります。というか、表面的であることを企図しています。「シムトラ学会」と名乗るイベントでこんなこと言うのもアレですが、Simutransは学問ではなくゲームだし、シムトラの景観プレイというのは理論的正確さよりも、ある種の情緒・芸術性を求めるものだと思うからです。
 ……私も不真面目な大学生活を送るにつれて、徐々に研究不足の言い訳が身についてきたと思います。


スライド4
 これはパワポテクなのですが、あらかじめ目次スライドのテンプレを作っておくのもよいです。(ちなみに陽キャが多い場で発表するときは背景の色を白に変えています。)


スライド5
スライド7
 私個人の解釈ですが、市道に求めるものは究極のところ、情緒だと思っています。列車が郊外に進むにつれて、車窓が下町の不揃いな景観から閑静な住宅地の景観に移り変わっていく旅情ですとか、遠目から見た時の情報量の多さとか、そういうものを積み上げていくことで、シムトラのマップは何倍にも広く感じられると思います
 最近市道の方に凝っているおかげで手植えからは距離を置いてしまっているのですが、手植えには手植えの美学というのがあると思うのでじきじき手を出していきたい所存。というか市道と手植えは町並み再現の両輪だと思います。


スライド8
 ……しかしながら、Simutransは現実の道路を再現するにあたってはかなり制約の大きな環境です。第一、広い面積を飽きずに開発するためには手間(作業量+思考量)がかかりすぎる方法は適切ではありません。また、他ゲーと異なりSimutransのインフラはマス目単位での設置となるため、どうしても解像度は荒くせざるをえません。


スライド9
 したがって、Simutransで情緒ある町並みの再現を行うためには、以下の2点を前提として受け入れる必要がありそうです。
 1. 完全再現は物理的に不可能、デフォルメ必須
 2. デフォルメにおいても、再現度を上げれば上げるほど手間は増え、ゲームの趣旨にもそぐわなくなる
 そしてこの前提を踏まえれば、求められているのは「町並みの抽象化・図式化」ではないかという"""説"""にたどりつくのです。これが真実


スライド10
スライド11
 さてさて、フリーメーソンめいたトライアングルも登場し、一気に怪しい雰囲気になってまいりました。スライドのタイトルにある「道路の形態をつくる要因」というのはかみ砕けば、「特定の道路をそれっぽく再現するためには、何を意識して道路の線形を決めればよいのか」ということです。

 各要因について
  •  地形要因: 平たく言えば(ダブルミーニング)、道路上での急こう配を避けようとする考え方のことです。山岳部では谷沿いに道路が引かれたり、崖はつづら折りで迂回したり、そもそも崖地に道路を引かなかったり(引けなかったり)。
  •  計画性要因: おそらく市街道路特有の考え方で、わかりやすく使いやすい道を建設しようとする考え方のことです。碁盤目道路はこれの最たるもので、ゲーム的合理性とも両立させやすい観念です。
  •  なんとなく: これは、市道線形に潜むイレギュラーな成分を表しますが、むろん現実の道路は「なんとなく」で引かれているわけではありません。Simutrans上で再現できないわずかな高低差、地盤の違い、土地取得の都合あるいは歴史的経緯など、一つ一つのイレギュラーに対し物語を設定することは現実的ではないので、こうしてひっくるめて扱うことにしました。


スライド12
 また、遠方から見た風景に強弱をつけるため、幹線と支線の区別をつけることを考えます。幹線には積極的に車線拡幅を行い、多くの路線バスや、多くの長距離トラックを経由させたりすることで形態上の区別をつけることができます。
 幹線すなわち都市間道路と、支線すなわち地域内道路の区別というのは、たとえば行政における国道・都道府県道・市町村道の区別とおおむね似通っています。


スライド13
スライド14
 このプロセスによって出来上がるのは樹状の市道ネットワークです。ただし、普通に道路を引いただけではこうした階層構造が見えにくい場合もあるため、前述したように車線を拡幅する、トラックを流すというように、構造を目に見える形で示してやるとよいと思います


スライド15
 ここにきて、『フリーメーソントライアングル』と『幹線支線の区別』という2つの原理だけで、あらゆる市内道路を分類できるのではないかという乱暴な結論が浮かび上がってきます。


スライド16
 ワンワンワンワンワンワンワン!!!!!!!ワンワンワン!!!!!!!


スライド17

 拡大してみるとわかりますが、完全な碁盤目ではないです。


スライド18

 私が信奉している「平野部において、成立の新しい住宅地は田んぼ時代の区割りを色濃く残している」神話を裏付けるためのスライドです。


スライド19
 ワンワンワンワン


スライド20

 クゥーン…………


スライド21

 これはさっきのピコ太郎と同じことを言っています。


スライド22
 ここまでのまとめです。シムトラ学会での発表時は、このスライドで最初の10分枠を終えました。
 個人的に強調したいのは、『一つのメソッドで六割~七割を再現』という部分。Simutransの景観プレイなんていい加減なもんなので、いい加減な態度でそこそこきれいに出来るというのが重要な気がします。


スライド24
スライド25
 さて、ようやくSimutrans.exeを開いて実践していくわけですが、その前にそもそも「ゲーム的合理性」と「リアル」が対立する根拠ってどこにあるんでしょう?


スライド26
 ……私はこう思います。
 すなわち、青い「ゲーム的合理性」の条件下で、黄色い「リアル」をどこまで詰め込めるかという勝負なわけです。


スライド27

 物事を不規則に行うというのは案外難しいです。いい加減な気分で開発するとか、そのいい加減に開発した区域に関して後で後悔しないとか、その辺の精神的心構えが必要かもしれないです。
 これは一つのテクですが、十字路をなるべく減らしたほうが不規則に見えやすいです。


スライド28

 次の三つです。……前半でいろいろ理論を考えてきましたが、それらは結局この三点「地形依存性」「歴史・文化依存性」「向きの多様性」をどうにかするためのものだったと言っていいと思います。


スライド29
 ……そして、ここではそれに加え、「土地をエリアに区切り、コンセプトに差異をつける」という手法を取り上げたうえで、リアルで変化に富んだ市道風景(あくまで市道の風景)を作れないか模索することとします。
 以下の五枚のスライドはその実践例を説明したものです。ここではあえて成立年代順を意識した工程をとることで、地図に歴史を埋め込めないか試みています。


スライド30
 
スライド31
スライド32
スライド33
スライド34
 本当に道路だけの景観です。ありがとうございました。
 ……この順番で建設した場合、バイパスを建設する手間が大きくなります。重要なバイパス道路を通す必要がある場合、工程2の段階で建設してしまうのも手かもしれません。
 私はこのように川の流れに沿った開発を行うタイプなのですが、このメソッドは大きな川のない平野では機能しないという弱点があります。


スライド35

 学会発表時にもご意見をいただきましたが、Simutrans上でカーブを再現するには、ドット絵に近いアプローチが必要になると思います。1マスS字カーブなど、細かいカーブを積極的に使うことで柔らかな印象になります。線形が柔らかい道路と硬い道路、区別できるだけで大分景観に奥深さがでます。
 なお、\_/のように、斜め道路と斜め道路の間のインターバルが短すぎる線形はなめらかに見えにくいです。脳内で円弧が補完できる程度、すなわち\_/くらいのインターバルが望ましいと思っています。


スライド36

 シムトラ永遠のアレとして、「どう見ても道路が太すぎる」問題があります。私の場合、細く長い道路を太い袋小路に置き換えることで、道路の強弱をつける手法をとっています。
例: 
 ========== こんな道路はシムトラでは引けないので
 ニニコ これを引いてごまかす


スライド37
 それではいよいよ総まとめに移ろうと思います。


スライド38


スライド39
 以上です。




 ……というだけでもさみしいので、最後にNSでの作例を2枚貼っておこうと思います。
 日本の実在地形をもとに、首都圏私鉄をテーマにプレイングを行うみたいなコンセプトのNSです。
simscr12
 横浜市保土ヶ谷区付近。全体的に、実在箇所の再現というかある種のifとして開発しています。Google Mapを参考に、実際に地元に住んでいる人が見ても「似ている」といえるくらいの雰囲気作りを市道から行いました。一部の開発の古い丘陵地など、かなりイレギュラー成分強めに道路を引いた箇所もあります。
 しかし、こう遠目で見た際に土地のコンセプトが思ったより目に飛び込んできません。都市が未発展で、道路が引かれたばかりのころは道路の特徴がよく目立っていたのですが、今となっては市内建築物&ランドマークの方が景観の印象を左右している感があります。今回は市道で力尽きてほとんど手植えをしていないんですが、範囲設置など活用してどんどん置いていったほうがいいのかな~と。
 

simscr13
 横浜市瀬谷区付近。比較的平坦なエリアですが、市街の粗密を分けることでメリハリある印象にしようとしているほか、川の付近だけは複雑な小地形を脳内補完し、引き方をイレギュラーにしています。この辺も現実準拠。
 市街の粗密分けについては実はジレンマがあって、「市道を高密度にすると市道に土地を取られ建物が低密度になる」というアレです。やはり袋小路乱発が正義なのか?




以上です。

P.S. シムトラ新BGM一曲作ってます
  Pakset専用BGMの依頼あれば作ります 無償ですが納期には期待しないでください

P.S. 2 スライドで使ってた英字のかわいいフォントはSimutransロゴに使われている"Roadgeek 2005 Series EM"です。