0. 注意点
この記事では、市道、建築物などあらゆるものをすべてプレイヤーが手動で設置する、いわゆる「手植えプレイ」を扱います。
1. この記事について
この記事は以下の三つのトピックを適当に繋ぎ合わせただけの雑多なものです。読みたいところだけ読んでください。- 手植えに使える資料について
- NetSimutrans特有の街づくり事情について
- スクリーンショット集
2. 手植えについて(資料と手法)
人はなぜ手植えプレイに走るのでしょうか(哲学)。私にとってその理由は二つです。- 自分でなんでも置いた方がマップの見た目がリアルになるから
- マップの見た目をリアルにする行為は面白いから
ネット上で容易に閲覧できる「現実世界の」資料といえば、以下の二点でしょうか。
・Googleマップ (またはGoogle Earth)
・地理院地図
Google Earthは、普段過ごすうえではなかなか意識できない街並みのディテールを観察する上でも役立ちますし、町全体の見た目を現実らしく整えるのにも参考になります。
たとえば、下のスクリーンショットでは、Google Earthにて東京都区内の国電複々線区間における市道の処理方法を調べ、ゲームプレイに応用しています。私は近年、マップ内の地形条件や、町の歴史的経緯を考えることも増えてきましたが、それと同時に現実世界に教えてもらえることも増えてきたように思います。
Google Earthからは非常に多くの情報を得ることができます。道路の区割りはもちろん、建物を3D表示させれば箱積み建築の参考になるでしょうし、線路周りの土木工事の造作(築堤など)を観察するのにも使えます。下町と新興住宅地の見た目の違いなんかも面白いでしょう。
反面、Google Earthの情報量はあまりに膨大で、都市の構造を見るのは容易ではありません。
その点、統計的分析においては、地理院地図が優れているといえます。
(C) 国土地理院
これは地理院地図内で閲覧できる、「宅地利用動向調査」という資料です。大都市圏の一部にしか対応していないのが玉に瑕ですが、日本の土地利用を工業地・住宅地・商業地に色分けして表示するという、Simutransのためにあつらえたような資料です。
地形や交通網と見比べながら、どこにどれくらい工業地、住宅地、商業地があるのかが観察できますし、それらがどういった区割りで、どういった見た目をしているのかも、航空写真などと見比べながら観察することができます。
コンビナートばかりが工業地ではありませんし、駅前ばかりが商業地ではありません。どんな大都会にも結構公園は沢山あるし、都心部からの距離に応じて都市密度が逓減していく、という一見当たり前の原則も、あながち一概に成立するわけではないと分かるでしょう。
また、同じ地理院地図でも「年代別の写真」は、都市の持つ歴史的重なりを見るのに役立ってきます。
(C) 国土地理院
一見すると年代プレイ以外には使えない資料にも見えますが、現実には土地利用の歴史的変化が生んだ景観というのは、案外多いです(宅地開発、再開発など…)。そういう意味では、個人的に1960年代の写真をお勧めします。というのも、自動車が移動の主役ではなかった最後の時代だからです。現代と見比べて、変わっているところ、変わっていないところを観察すると面白いと思います。
3. NetSimutransで"""大"""都市を作る(「都市管理者」としての立場から)
NetSimutransは、手植えによる都市作りプレイをするうえでは、ある意味「究極」の環境です。当然ながら、「手数」が増えることはマルチプレイの大きな強みです。しかしマルチプレイの最大かつ代替不能のメリットは、複数人が一つの都市を開発することによって、ゲーム内マップが「箱庭」ではなく「経済空間」となることではないでしょうか。
分かりやすく言えば、ちょうど東急グループが渋谷という地区を育て、JRが品川という地区を育てていくように。あるいは、
複数のプレイヤーが同時に一つの都市を作っていると、各々が考える「都市」が、一つの土地に渾然一体と混ざり合ってきます。この章の見出しであえて「"""大"""都市」という言い方をしたのは、こうした多角的な構造は、ちょうど日本の東京・大阪・名古屋のような大都市によくみられるものだからです。
さて、最近は馴染みのNSでほかのプレイヤーと一緒に大都市を作っています。
このサテライトに写っている範囲には5人ほどが関わっています。開始4か月後とかですが、みんな手が遅いので大して埋まっていません。
複数人開発ならではの特色を示す、最も典型的な例が、下のスクリーンショットです。ここでは、5人の開発領域が隣接しています。
ここは2人がエリアごとに分担して開発しています。(ただし、後述しますが、一部の道路は私が引いています)。
住宅地区、商業地区、工業地区、官庁街、公園など、各々が作りたいものを作っていくうちに、都市に多様な地区と生活圏が生まれました。
なぜいきなりNetSimutransで他人が作った町の話をし始めたのかというと、私はこの都市の主たる管理者の立場だったからです。
管理者といっても、私が行ったのは以下の4点+α程度です。
- あらかじめ行政区のエリアを決めておいて、区ごとに開発主任を募集する
- 基幹交通網(幹線道路、市電、地下鉄)を一括で管理する
- 市内を通る鉄道路線において、プレイヤー間のルート交渉を仲介したりする。
- 江戸時代にお城があった位置を決める
数年前のNANS系景観NS以来、私は何度か「都市管理者」という謎の役目を担わされてきましたが、その本来の職務はというと、「プレイヤー間の衝突を避けつつ、都市全体を一つにまとめる」ことにあると思っています。逆に言えば、都市開発それ自体や、都市の開発方針策定などは、都市管理者が行う必要がありません。都市の全体的な規模感、産業構造をはじめ、中心街や主要駅、空港の位置などは、すべて基本的にほかの参加者に開かれるべきだと思います。
最低限の枠と開発人数が決まっていれば、おのずと仕上がる都市の大きさも決まってくるし、あとは「官庁街がほしい」「再開発地区がほしい」「大通りがほしい」「大学がほしい」などというプレイヤーの意識だけで、都市は出来ていくと思います。
とはいえ現実的な話、複数プレイヤー間でここまで世界観を統一できたのは、このNSサーバーそのものが持つ、景観意識の高さの賜物であることには触れなければなりません。各プレイヤーが積極的に現実的な景観を学習し、周囲との調整をこまめに行い、なおかつ手植えに伴う膨大な手間を惜しまなかった結果として、今の景観があるものだと考えていますし、私が都市管理者として寄与した部分などほんのきっかけ程度のものです。
まあ一般論としてNetSimutransというのは人の集まりですので、景観だのリアリティだのに拘るよりも、その場のコミュニティを活性化させる方向を目指して運営するべきだとは思います。
4. 実際にプレイした例
ただのスクリーンショット集です。私はここ半年くらい、馴染みのNetSimutransサーバーで色々と手植えプレイを試してみてました。中でも、今回テーマに据えた「街の動き」という観点で、紹介したい部分をスクリーンショットでお見せします。
塩明市岡崎区 電気町電停付近
設定
- 明治時代には都市の中心部から少し外れた地域で、大正期に国鉄のターミナルが出来たことにより発展
- 当時日本でも珍しかった本格的な映画館が建設され、その映画館が「電気館」と名乗ったことから地域名として定着した
- 戦後は塩明市の人口が急増するなか発展から取り残され、相対的に繁華街の座を他地域に譲ることとなる。
- そのおかげで、当時からの商店街や百貨店は往時の名残をとどめている。交通の便の良さもあり、いまだに市内を代表するショッピングスポットかつ観光地である
モデルにしたのは浅草ですが、地形を鑑み、古き良き山の手のお洒落感も出しています。正直フィーリングで作ったところも大きいので、あまりリアルな街並みではありません。
塩明市駒川区 動物公園前電停付近
他プレイヤーからの提案もあり、丘の上に動物公園を作りました。周辺は住宅地としています。
日本の町では、大通りから一本入ったような所は純粋な住宅地か公園であることが多く、古くからの都市中心部を除き、商業地が混合していることはあまりありません。
丘の上の動物公園は、市電の終点にするのには丁度よいランドマークになると思います。
穴浜市 針生駅付近
設定
- 穴浜市は塩明市に隣接した港湾・工業・軍事都市
- 古くから洪水や津波といった災害に見舞われてきた地域でもあるので、低地においては宅地開発を制限し、計画的な都市開発を行っている
- 一方、傾斜地は戦前戦後を通して旺盛に宅地開発が行われ、急速な人口増加に区画整理が追い付かなかった
塩明市瑞京区 相生橋駅付近
国電が分岐する駅ですが、カーブしているほうの路線(穴浜線)は、戦時買収が行われる前は私鉄でした。そのため、線形や駅間距離、駅の構造などは全体的にミニマルに作り、意図的にほかの国鉄線(他のプレイヤーが建設しています)とは差別化したスタイルで建設しています。
穴浜線の元の運営会社は、本業の鉄道事業が買収された後も、鉄道高架下の土地を保有しており、商店としてテナントを入れている設定です。また、かつては国鉄の高架下をくぐって向こう側にターミナル駅を保有していた設定もあり、廃線跡の延長線上にある、国鉄の高架橋をくぐる道路が当時の名残を伝えます。
塩明市岡崎区 大治田駅付近
こちらの路線は、かつて兄崎駅から東側は併用軌道を通っていました。もともと路面電車の延長として建設された電鉄線が、輸送需要の拡大に合わせて高速鉄道に改良されたという形です。
このエピソードは「設定」ではありません。当初は本当に路面電車の延長線として建設していました。が、大手私鉄プレイがやりたい気分になったので、車両を大型化し、併用軌道を廃止し、起点付近は一挙に地下化してしまいました。路面電車のノリで作った路線が、軌道改良の末普通のヘビーレールと化した事例は現実でもよくある話ですからね。
併用軌道が消えつつある現在においても、現実の京王線や京急線を参考に、街道に寄り添うような線形を残しています。
塩明市 倉持駅付近
川からほどよく離れた位置に自然堤防があるものと想定して、自然堤防上の道(オレンジラインの道路です)を軸に市街を設置した箇所です。
塩明市 八里塚駅付近
なんてこともない首都圏風の駅前です。
都会の駅前ロータリーというものは、最初からこのようにあるのではなく、駅前に集約されていた低層商店の密集地をつぶし、それを再開発駅ビルにまとめた上で初めて用意できるものというのは、東京圏在住の人にはなんとなく知られた話かもしれません。
一等地にパチンコ店を置くのはこだわりです。首都圏の駅前というのは移り変わりが激しいもので、50年前から現在に至るまで残るものって、医院か余程の名店かパチンコ店くらいのものです。例外もありますが、古くから栄えていた駅前には大体一等地にパチンコ屋があります。
5. おわりに
私が思うに、Simutransのマップと現実の都市には、一つの共通点があります。
現実世界の都市は、人がそこに住み、そこで働き、そこで遊ぶという「行動」が蓄積することで、経済的に成立しています。一方で、Simutransのマップとは、「プレイヤーの行動の蓄積」にほかなりません。つまり、どちらも個人の「行動」が重なった結果、目に見える形になっているのです。
ですから、何も景観をリアルにするためだけにSimutransをやっているつもりはありません。「プレイヤーが好き勝手にプレイした結果であるマップを、あたかもマップ内の住民が実際に生活した結果であるかのように見せかける」という匙加減が、このゲームの一つの醍醐味ではないかとも思っています。
P.S.
- 一昨年は枠だけ取ってバックレてしまい本当に申し訳ございませんでした
- 最近結構建物系アドオン増えてるのですごいよ
- このゲームほんとキリ無いよ
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